Script database and Japanese screenwriters in Japanese broadcast programs and animation

このサイトは平成・昭和などを彩った脚本・脚本家をアーカイブ化したウェブサイトです。脚本家たちの人となりや、脚本データ、来歴や作品歴をご覧いただけます。

「早春スケッチブック」(83年、フジテレビ)

Work Title 「早春スケッチブック」(83年、フジテレビ)
Phonetic Pronunciation -
Period -
Author 山田太一
Summary お茶の間でぼんやりホームドラマを見ていたら、「おまえら、骨の髄までありきたりだ!」という罵声を浴びせかけられる。ドラマの中の登場人物が他の登場人物に向かって投げかけた台詞だとわかっているが、視聴者も思わずドキリとさせられるだろう。 このドラマがバブル経済期の平均的家族に突きつけたのは、家族とは何か、人間はどう生きるべきか、死と向き合えるかという直球の問いかけだった。どこの店の何がおいしいとか、正月休みはハワイに行ったとか、新しいゴルフクラブを買ったとか、当り障りのない会話でお茶を濁す日々を振り返り、直截で辛辣な台詞に心を揺さぶられるに違いない。 望月家は夫婦と子供2人の4人家族。一見、何の変哲もない家族に見えるが、実は複雑な家族関係を秘めている。中学一年生の良子(二階堂千尋)は父・省一(河原崎長一郎)と前妻との間に生まれた娘、高校三年生の和彦(鶴見慎吾)は母・都(岩下志麻)と昔の恋人との間に生まれた息子。そんな寄せ集めのような家族でも、仲良く平和に暮らしていた。和彦は一流国立大学をめざす秀才で、共通一次試験を控える大事な時期だ。 ところが、和彦の前に謎の女・新村明美(樋口可南子)が現れる。明美に強引に連れていかれた先には古びた洋館があり、元写真家の沢田竜彦(山崎努)が住んでいた。彼は和彦の実の父であった。過激な言動で和彦を翻弄する沢田の出現で、望月家にも亀裂が入り始める。実は沢田は重い病にかかっており、余命幾ばくもなかった。沢田は和彦に父と名乗り、何か言う資格などないとわかっていたが、自分の生き方を伝えたい相手は息子しかいない。まるで遺言のように鮮烈な言葉を多感な息子に吹き込み、息子は自分の生き方に疑問を抱くようになる。 初めは沢田を疎ましく思っていた省一や、かつて沢田に捨てられ和彦を生んだ都も、死を前にした人間に何がしてやれるかと考え始める。登場人物が互いを思いやりながら、物語はラストへと向かう。死を覚悟した男の最後の生命の息吹きを歌い上げた物語であり、沢田竜彦を演じた山崎努の魂を振り絞るような名演は見る者の心を打つ。 山田太一が沢田を通して視聴者に突きつけた言葉は、人生を変える力を持つかも知れない。しかし、沢田ができなかったありきたりの生き方、平凡な暮らしを否定しているわけではない。普通や平凡を続けることの重みも十分にわかって問いかけているのだ。 「小市民が小市民に向かって罵声を浴びせかけてみました。もっとも、私自身が小市民だし、自分の傷を自分の爪でかき回す苦痛は相当応えましたが」と山田太一は語っている。
Script of This Work

この作品の脚本データは収録されていません。